
先日、自然環境の保全と利活用がどのように両立されているのか、実際の現場に足を運んで学ぶため、長野県松本市にある中部山岳国立公園・上高地を訪れました。
研修レポを個人ブログ「toriたま日記」でも掲載してOKと許可がおりましたので、少し体裁をライトに修正し、こちらでも研修レポを公開いたします!
02 大正池 火山がつくり、人が守る池
最初に訪問したのは上高地を代表する「大正池」です。この池は1915年に焼岳の噴火によって生まれた泥流が梓川をせき止めてできた、比較的新しい堰止湖なんだそうです。
一見すると手つかずの自然の池のようですが、上流から流れ込む土砂によって全体が年々浅くなっており、景観維持等の観点から冬季には民間企業により浚渫(しゅんせつ)工事が行われてるため、ある意味人工的な池とも言えるようです。
早朝には霧が立ち込め幻想的な雰囲気になるため観光客に非常に人気のスポットであり、その景観は、自然の営みだけでなく人の手による継続的な管理によって支えられていることを知りました。
このエリアでは噴火直後に水没した森の木々が立ち枯れとなって水面に林立し、立ち枯れの姿が幻想的な景観として知られるようになりましたが、長い年月と度重なる出水を経てそのほとんどが倒れ、現在残るのはごくわずかなんだそうです。
噴火から110年が経った現在も残る「最後の一本」は多くの人に親しまれ、その姿は上高地の成り立ちと時の流れを静かに伝える存在となっていました。
梓川のせせらぎや鳥のさえずりに耳を澄ませながら歩く林間コース
そして、大正池のほとりから河童橋方面へと続く林間コースは、梓川の水音に包まれた静かな散策路です。川のせせらぎやハルゼミの声が聞こえ、途中でオシドリやマガモのつがいにも遭遇しました。焼岳の噴火という一瞬の出来事が、100年以上かけてこの穏やかな風景をつくり上げてきたことを思うと、感慨深いものがあります。
03SPOT 02
創業90年を超える山岳リゾートホテル
そして、梓川沿いを歩くこと数十分。1933年に日本初の本格的な山岳リゾートホテルとして開業した上高地帝国ホテルを訪れました。雄大な自然に溶け込む赤い三角屋根は、長年にわたり多くの登山者や旅行者を迎えてきた上高地を象徴する風景です。今回はホテルスタッフの皆様にご案内いただき、長年受け継がれてきたおもてなしと、環境に配慮した取組についてお話を伺いました。
毎日17時に火が入る銅製暖炉「マントルピース」
正面玄関を入ると、まず目に飛び込んでくるのが、ロビーラウンジ中央に設けられた高さ約5m、重さ約600kgの銅製暖炉「マントルピース」。ラウンジには楢の薪が燃えるやわらかな香りが広がり、毎日17時には点火デモンストレーションが行われていると教えていただきました。
03SPOT 02
上高地帝国ホテル 90年を超えて続くサステナブルな挑戦
点火にあわせて、サルやツキノワグマと出会った際の注意点や、海洋プラスチック問題など環境に関するミニレクチャーも実施されており、宿泊客が楽しみながら自然との付き合い方を学べる工夫がなされていました。
約2万4,000本の栗の丸太が使われている天然の床
館内の床には約2万4,000本の栗の丸太が使われているそうで、乾燥によるひび割れを防ぐため、定期的に散水を行いながら維持管理していると教えていただきました。
また、ロビーには六百山の湧水を引き込んだ「水汲み場」が設けられ、年間を通じて約8℃の冷たい湧水を来訪者が自由に味わうことができます。地域の自然資源を生かしながら、長く大切に使い続ける姿勢が館内の随所から伝わってきました。
タモリさんが上高地オリジナルカクテル「マウント穂高 Mount Hotaka」を飲んだというテラス
また、こうした伝統を受け継ぐ一方で、環境負荷の低減に向けた取組も積極的に進められています。歯ブラシやカミソリなどのアメニティには竹や木などの素材を採用し、プラスチック使用量を約9割削減。さらに、ノリタケの廃材を活用したカップや、トヨタの廃シートベルトを再利用したラゲッジスタンドなど、アップサイクル素材も館内各所に取り入れられていました。
廃材や再生素材を活用した備品など、館内の随所に環境配慮の工夫が取り入れられている
看板の内容によると、2015年からは館内で発生する生ごみを堆肥化し、その堆肥で育てた野菜をレストランで提供する資源循環の仕組みも導入されているそうです。
また、2022年4月からは使用電力を信州産のCO₂フリー電気へ切り替え、灯油やガスについてもカーボン・オフセットを活用することで、ホテルで使用するエネルギーに伴うCO₂排出量の実質ゼロを目指した運営が進められていると知りました。
六百山からの湧水も、モーターを使わない地形の高低差を生かしたサイフォン方式で引き込まれており、自然の力を生かした設備が現在も活用されていることに驚きました。
赤い屋根は、1977年に木造から鉄筋コンクリート造へと全面改築された際にも受け継がれている
さらに、「上高地を美しくする会」の一員として、地域住民とともに湧水の保全活動にも取り組んでいるんだそうです。こうした環境保全と観光を両立する姿勢が評価され、2023年には環境省主催「グッドライフアワード」実行委員会特別賞「地球と人への想いやり賞」を受賞しています。
築90年を超える建物を受け継ぐための丁寧な手仕事と、脱プラスチックや資源循環、脱炭素など時代に応じた新たな挑戦。その両方が自然に共存していることこそ、上高地帝国ホテルの大きな魅力だと感じました。
上高地を象徴する河童橋の横に佇む山岳ホテル
大正池から林間コースを抜け、帝国ホテルから河童橋へ向かうと、上高地のシンボルである河童橋に到着します。梓川に架かるこの橋のたもとには、1918年創業の五千尺ホテル上高地があります。
04 SPOT 03 河童橋・五千尺ホテル上高地
100年、旅人を迎え続ける場所
開業から100年を超えるこのホテルは、2019年(令和元年)の100周年記念事業を機に「五千尺ホテル上高地」へと改称。今回は特別に五千尺ホテルの方から、上高地の観光を長年支えてきた現場ならではの工夫や、旅行者の変化について貴重なお話を伺うことができました!
100年以上にわたり上高地を支えてきた五千尺ホテル
今は若者やインバウンド観光客で平日でも多くの人が利用している上高地も、かつては観光客が海や水エリアに分散してしまい、当時は高齢の登山客・旅行者が中心で「シルバーランド」と呼ばれることもあったそうです。
環境保全の観点からマイカー規制で一時的に150万人ほどに来訪者数が落ちた時期もありましたが、SNSで「恋愛とお金の聖地」と話題になるなど、登山客だけではなく若者が急増したとのこと。コロナ明けのインバウンドも影響し、2025年には約166万人が訪れ、外国人の宿泊者数も2万人を超えるなど、平日を含め国際色豊かな山岳リゾートとしての姿を強めているようです。

人が増えることによって出てくるクマ対策や登山者・インバウンド旅行者のごみ対策など、日々新しい課題への挑戦も続きます。国立公園制度だけでなく、行政・事業者・住民がそれぞれの持ち場で関わり続けており、それぞれが自らの役割を担い続けてきた積み重ねこそが、上高地の景観を支える大きな力になっているのだと感じました。
上高地5つのルール
また、上高地には「上高地5つのルール」という共通の取組があります。
美しい自然を守るため、「5つのルール」にあわせて、新たに追加された2つのルールを守るよう、エリア全体で共通の取組を実施していることも知りました。
toritamadiary2018.hatenadiary.jp




