
前編では、大正池・上高地帝国ホテル・河童橋周辺の様子をお伝えしました。後編では、早朝の上高地で感じた空気から、その景観を支える保全の仕組み、そして2日目に立ち寄った奥飛騨エリアまでをご紹介します。
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(研修レポを個人ブログ「toriたま日記」でも掲載してOKと許可がおりましたので、少し体裁をライトに修正し、こちらでも研修レポを公開いたします。後編です)
朝霧が晴れ、穂高連峰が姿を現す早朝の河童橋。宿泊者だからこそ出会える静かな時間
05 早朝の上高地
2日目は、宿泊者だからこそ出会える早朝の上高地を歩こうと、日の出とともに宿泊施設から河童橋方面へ向かいました。(熊出るんじゃないの…とびくびくしながら起床)朝4時台、外に一歩出ると、コガラやヒガラのさえずりに加え、梓川の心地よいせせらぎが響き、なんだか懐かしい気持ちに。
早朝の河童橋
ひんやりとした空気を肌で感じながら歩いていると、体全体が自然の中へ溶け込んでいくような感覚になります。
立ち込めていた霧がゆっくりと晴れ、穂高連峰の稜線が姿を現す光景は、レイチェル・カーソンの『センス・オブ・ワンダー(Sense of Wonder)』という言葉がふさわしい情景でした。
こうして自然に心を動かされる体験は、その土地への理解を深め、自然環境への関心や保全について考えるきっかけにもなります。自然との豊かな出会いを生み出すことは、リジェネラティブ観光が持つ大切な価値の一つであることを実感しました。
雪解け水を集めて流れる梓川。
澄み切った流れが上高地の景観を形づくっている
また、河童橋のたもとには、上高地を代表する樹木の一つケショウヤナギの大木があります。国内では上高地から松本盆地にかけての梓川流域と、北海道の一部にしか自生しない希少な樹木だそうで、1927年(昭和2年)に上高地で発見されたことで知られるようになったと看板に書かれてありました。
他の植物が育ちにくい礫質の河原を選んで生育するこの木は、6月から7月にかけて綿毛のついた種子を風に乗せて飛ばします。ちょうど研修で訪れた時期は、その綿毛が舞う季節と重なっており、ふわふわと飛ぶ綿毛を観察することもできました。
河童橋周辺は6時台になるとすでに多くの人で賑わい始め、梓川で写真を撮る人の姿も数多く見られました。(熊の心配無用でした…)
06 岳沢湿原―湧水が育むもう一つの上高地
山から湧き出る地下水が育む岳沢湿原
この日は本来であれば乗鞍高原まで足を延ばす予定でしたが、通行止めや天候不良が予想されたため、上高地近辺で過ごすことに。宿泊施設を出てから河童橋から少し足を延ばし、岳沢湿原へと向かいます。
安全に自然を楽しむため、地域やレンジャーの知見を生かした案内が設置
岳沢湿原へと向かうエリアは「自然探勝エリア」と呼ばれる場所です。このエリアに入る手前部分には観光客に向けた看板が設置されており、軽装のまま危険な区域に入り込んでしまわないよう、来訪者への呼びかけが工夫されています。
かつて、軽装のまま気軽に奥地に踏み入れてしまい事故に遭う方や天候の良い日の動画を見て気軽に訪問してしまう外国人観光客などが多く、事故に遭う人を一人でも減らすために設置されたんだそうです。現場で日々登山者や観光客と向き合うレンジャーや地元の人々の声が反映されたものなんですね。
岳沢湿原は焼岳の噴火によって形成された梓川本流とは異なり、周辺の山から染み出した湧水によって満たされています。同じ上高地の中でも、雪解け水でできた川と、湧水でできた湿原とでは水の透明度も水面の揺れ方も漂う空気の質や匂いまで異なって感じられました。資料や写真だけでは伝わりきらない、その土地の空気や水音を全身で受け止める時間になりました。
07 上高地の自然を守る保全の仕組み
人と野生動物が共存するため、さまざまな工夫が積み重ねられている
上高地は野生動物と人の距離が近いフィールドでもあります。ツキノワグマの生息域と観光利用エリアが重なることから、地域全体の課題として、食品残渣への誘引を防ぐため、食品ごみの管理を徹底したごみ箱の導入や利用者への注意喚起など、人と野生動物の不用意な遭遇を防ぐための対策が積み重ねられてきたようです。
あわせて、最近では野生動物との不要な接触を避けるため夜間の行動に一定の制限を設けたり、クマ出没情報の看板を設置したりするなど、安全と自然観察を両立させる工夫が続けられていると教えていただきました。
美しい景観は多くの人々の支えによって守られている
また、上高地では、1963年に設立された「上高地を美しくする会」が清掃活動に加え、外来植物の除去など自然環境の保全にも取り組んでいるんだそうです。
多くの来訪者が訪れる上高地で、路上のごみが少なく美しい景観が保たれている背景には、こうした60年以上にわたる地域ぐるみの活動があり、自然解説や歩道の維持補修、動植物の調査などを行う上高地パークボランティアの存在も、上高地の環境を支える大きな力となっています。行政だけでなく、地域に根差した多くの人たちの手によって、この景観が守られていることを実感しました。
また、現地で伺ったところ、2023年度から急増する来訪者への対応として、上高地観光旅館組合・環境省・JTBが連携して宿泊者向けの手荷物配送サービスの実証実験が始まっているんだそうです。
環境保全の観点を大切にしつつ、来訪者の利便性向上との両立を図るため、一定のルールのもと上高地バスターミナルと園内の宿泊施設との間で荷物を預け合うことができ、身軽に散策を楽しめるようにと始まったものらしく、2026年度で4年目を迎えます。
対象施設や受付時間を見直しながら継続されている実証的な取り組みなんだそうです。
マイカー規制に始まり、美化活動、手荷物配送サービスに至るまで、訪れる人が増えても環境を守れる仕組みが、時代に合わせてかたちを変えながら積み重ねられてきたことを実感しました。地域の主体的な取組を基盤として、行政・企業・地域住民が連携しているのが上高地の国立公園の特徴なんですね。
中部山岳国立公園奥飛騨ビジターセンター
奥飛騨ビジターセンター:奥飛騨の自然や文化を伝える新たな拠点
そして、研修の最後は少し足を延ばし、奥飛騨温泉郷・平湯に訪問しました。(本当は乗鞍に行く予定だったのですが、通行止めでまたの機会に…)
近くにある中部山岳国立公園奥飛騨ビジターセンターは、老朽化により休館していた「飛騨・北アルプス自然文化センター」を再整備し、2024年7月13日にリニューアルオープンした拠点です。
国立公園の利用案内や自然解説、環境学習の拠点と、自然散策や環境学習といった体験プログラムを提供する自然体験棟の2棟で構成されており、自然公園の保護と利用を担うガイドや地域住民の交流の場としての役割も担っています。上高地とはまた違った奥飛騨の自然や文化を伝える窓口として、多くの旅行者の起点になっていました。
🍕 現地グルメひとくちメモ
AWAWA HIRAYU 地元食材を使った食や情報発信を通じ、滞在型観光を支える地域の拠点
2025年7月に長野県松本市と岐阜県高山市を結ぶ全長117kmのロングトレイル「信飛(しんぴ)トレイル」が開通。その後、9月に本格開店した「AWAWA HIRAYU」にもランチを兼ねて寄り道しました!
乗鞍高原にある宿泊施設と同じ運営母体によるもので、地元産食材を活用した飲食の提供に加え、E-BIKEレンタルやロングトレイル利用者への情報発信など、滞在型観光を支える拠点となっています。
店内には信飛トレイルの地図も設置されており、地元の特産品が数多く販売されていました。地元の食材を使ったピザは観光客のみならず、地元の人々にも人気でとーっても美味でした✨。(私は湧き水でゆで卵ができていることにびっくり仰天でした。さすが温泉エリア)
08おわりに
上高地は、火山活動という自然の力によって生まれた地形の上に100年にわたる観光利用の歴史が重なり合ってできた場所です。
マイカー規制という全国に先駆けた取組や地域住民による美化活動、事業者によるサステナブルな挑戦など、増加する来訪者を受け止めながら自然環境を守る--今の上高地の姿はさまざまな人たちの活動によって保全と活用の好循環がなされていると感じました。
今回、研修全体を通じて、さまざまなフィールドを訪れ、現地のみなさまの取組についてお話を伺い、様々な場所で五感を通じて感じた自然への没入感は、実際にその場に立たなければ分からないものでした。
上高地で学んだことは、特別な山岳景勝地だけに当てはまるものではありません。地域の自然を大切に思い、行政・企業・住民がそれぞれの立場で関わり続けることが、その土地の環境を未来へ引き継ぐ力になるのではないかと感じました。
(おわり)

(本ブログ用後日談・感想)
飛騨高山を含め、このあたりの場所に来るのは小学校4年生以来でした。結婚してから自然とはかけ離れた生活をしており、自力ではなかなか行こう!とはならない場所なので、こうして家族で再びこの場所に来ることができ、非常に感慨深い時間でした。
この春から仕事が新しくなり、久々に10年前に戻ったような気持ちで、なんだか夢のような不思議な日々です。ブランクが長すぎる上に新しい仕事なので、毎度周囲に多大な迷惑(と心配)をかけつつ、早く一人前になるべく精進せねばと思う日々です。
24hほぼ仕事か家庭のことを考え、プライベートと仕事が混ざって落ち着く暇のない毎日ですが、正直今の仕事は天職であることは間違いないです。毎日過密で刺激的でとっても楽しいので、切り捨てられないように頑張ろうと思います。
上高地研修を企画してくださった皆様、本当にありがとうございました。
次はライチョウ見が見たい!